Greeting

教授挨拶 Professor's Message

教育方針イメージ

 薬理学講座に着任して三年目の春を迎えました。今、旭川にはようやく桜前線が到達して、外は桜色に染まっています。新しい土地の新しい大学で新たな研究生活を始めるに当たり不安も少々ありましたが、皆様に温かく迎えていただき、おかげ様で無事に研究室を立ち上げることができました。
 さて、ここからが肝心と気持ちを引き締め直している新年度です。2022年度は、大学院生1名と学部生3名が、この4月には学部生1名が加わり、研究室には活気が出てきました。一緒に研究を進めているスタッフの研究テーマも進展し、低酸素を主軸とした「がん?虚血?ストレス応答」研究の基礎ができてきました。
 そして、新しい取り組みとして、研究成果を元にした地域の小?中学生向けの公開講座を昨年、一昨年と開催しました。医学研究や大学の研究室がどのようなものなのかを、早いうちから知ってもらえれば良いなと思います。参加して下さった皆さんの笑顔には本当に元気づけられます。
 本年も新しいことにチャレンジしていきたいと思います。引き続き、私共、薬理学講座へのご指導?ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

                           2023年5月1日
                          薬理学講座教授 中山 恒




 薬理学とは薬の作用機序を明らかにする学問です。薬には、家庭にある常備薬から医療現場で使用する薬まで、さまざまな種類があります。講義では、疾患の治療に用いられる代表的なものを例に、その作用機序をわかりやすく説明します。学生の皆さんには、その薬をなぜ使うのか、いつ使うのか、どのように使うのかなど、薬の5W1Hを、そのメカニズムから理解していただきたいと考えています。
 研究では、いくつかの課題に取り組んでいます。一つ目は、がんにおける低酸素応答の分子メカニズムの解析です。低酸素応答とは、酸素濃度が低下した時に、細胞を保護し、適応させるために引き起こされる細胞応答です。この応答は、がん?虚血性疾患?炎症性疾患など、さまざまな疾患と密接に関わっていることが知られています。がんは低酸素環境で悪性化します。腫瘍内に血管を引き込んだり、細胞死に抵抗性を示したり、浸潤?転移能を高めたりします。さらに、がんのおおもととなるがん幹細胞の維持にも低酸素環境が作用していることが近年報告されています。イメージング、シングルセル解析、代謝解析などの先端技法を駆使して、これらの悪性形質を引き起こす分子機序を明らかにし、がん治療薬の開発に結びつけることが私たちの大きな目標です。
 二つ目は、病態形成におけるプロスタノイドの役割解明です。プロスタノイドは、4種類のプロスタグランジン(PGD2、PGE2、PGF2α、PGI2)と1種類のトロンボキサン(TXA2)で構成され、8種類の受容体を介して生体内で様々な作用を発揮している生理活性脂質です。アスピリンを代表とする非ステロイド性抗炎症薬NSAIDsは、プロスタノイドの産生抑制がその主作用です。しかし近年、プロスタノイドには、抗炎症作用もあることが明らかになり、数種類のプロスタノイドが病態の悪化にも改善にも働いていることがわかってきました。そこで私たちは、8種類のプロスタノイド受容体欠損マウスを用いて病態モデルを作出し、その解析を通してプロスタノイドが病態形成においてどのような役割をしているのか解明し、様々な疾患の治療薬開発につなげていくことを目指しています。(2021年2月)

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